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敷金返還請求(原状回復特約・敷引き特約)についての判例のご紹介

神戸地裁 平成16年(レ)第109号 保証金返還控訴事件(平成17年7月14日言渡)

敷引特約について、賃貸借契約に関する任意規定の適用による場合に比べ賃借人の義務を加重するものであると判断し、敷引金の各要素について検討を加えた上で、賃貸事業者が消費者である賃借人に敷引特約を一方的に押しつけている状況にあるとして、敷引特約が信義則に違反して賃借人の利益を一方的に害するもので、消費者契約法10条により無効であるとした事例

控訴人:賃借人 被控訴人:賃貸人(不動産会社)
賃料月額5万6,000円 敷金30万円(敷引特約25万円)
更新:貸主及び借主双方に異議がなければ、同一条件で自動的に更新
退去時に敷金から敷引金を差し引いた残額5万円を返還


[要旨]
1.敷引特約は賃貸借契約に関する任意規定の適用による場合に比べ賃借人の義務を加重するものである
2.敷引特約は賃貸事業者が消費者である賃借人に敷引特約を一方的に押しつけている状況にある
3.敷引特約は信義則に違反して賃借人の利益を一方的に害するもので、消費者契約法10条により無効である

[賃貸借契約とは]
賃賃借契約は、賃貸人が賃借人に対して目的地を使用収益させる義務を負い、賃借人が賃貸人に対して目的物の使用収益の対価として賃料の支払が対価関係にあることを本質的な内容とするものである。そして、民法上、賃借人に賃料以外の金銭的負担を負わせる旨の名文の規定は存しない。そうすると、民法において、賃借人に賃料以外の金銭的な義務としては、賃料以外のものを予定していないものと解される。

[敷引金の性質について]
敷引金の性質について、(1) 契約成立の謝礼、(2) 自然損耗の修繕費用、(3) 契約更新料免除の対価、(4) 契約終了後の空室賃料、(5) 賃料を低額にすることの代償などのさまざまな要素を有するものが渾然一体となったものととらえることができる。

[上記(1)ないし(5)の各要素の検討]
(ア) (1)賃貸借契約成立の謝礼
賃貸借契約成立の際、賃借人のみに謝礼の支出を強いることは、賃借人に一方的な負担を負わせるものであり、正当な理由を見いだすことはできない。そして、賃貸借契約は、賃貸目的物の使用収益と賃料の支払が対価関係に立つ契約であり一賃貸人としては、目的物を使用収益させる対価として賃料を収受することができるのであるから、賃料とは別に賃貸借契約成立の謝礼を受け取ることができないとしても、何ら不利益を破るものではない。
(イ) (2)賃貸借契約は、賃貸目的物の使用収益と賃料の支払が対価関係に立つ契約であるから、目的物の通常の使用に伴う自然損耗の要する修繕費用は考慮された上で賃料が算出されているものといえる。そうすると、賃借人に賃料に加えて敷引額の負担を強いることは、賃貸目的物の自然損耗に対する修繕費用について二重の負担を強いることになる。これに対し、賃貸人は、賃料から賃貸目的物の自然損耗の修繕費用を回収することができるのであるから、別途敷引金を受け取ることができないとしても、何ら不利益を被るものではない。
(ウ) (3)賃貸借契約更新時の更新料の免除の対価
賃貸借契約において、賃借人のみが賃貸借契約の更新料を負担しなければならない正当な理由を見出すことはできず、しかも、貸借人としては、賃貸借契約が更新されるか否かにかかわらず、更新料免除の対価として敷引金の負担を強いられるのであるから、不合理な負担といわざるを得ない。一方、賃貸人としては、賃貸借契約が更新された後も、目的物を使用収益させる対価として敷引金の負担を強いられるのであるから、賃料とは別に賃貸借契約の更新料を受け取ることができないとしても、不利益を被るものではない。
(エ) (4)賃貸借契約契約終了後の空室賃料
賃貸借契約は、賃貸目的物の使用収益と賃料の支払が対価関係に立つ契約であり、賃借人が使用収益しない期間の空室の賃料を支払わなければならない理由はないから、これを賃借人に負担させることは一方的で不合理な負担といわざるを得ない。一方、賃借人としては、新たな賃借人が見つかるまでの期間は賃料を収受することができないが、それは自らの努力で新たな賃借人を見つけることによって回避すべき問題であり、その不利益を賃借人に転嫁させるべきものではない。
(オ) (5)賃料を低額にすることの代償
敷引特約が付されている賃貸借契約において、賃借人が敷引金を負担することにより、目的物の使用対価である賃料が低額に抑えられているのであれば、敷引金は目的物の使用の対価としての賃料の性質をも有するから、直ちに賃借人の負担が増大するものとはいえない。しかし、賃料の減額の程度が敷引金に相応するものでなければ、実質的には賃借人に賃料の減額の程度が敷引金に相応するものであるかは判然としない。また、本来、賃借人は、賃貸期間に応じて目的物の使用収益の対価を負担すべきものであるから、賃貸期間の長短にかかわらず、敷引金として一定額を負担することに合理性があるとは思えない。さらに賃借人は、敷引特約を締結する際、賃貸期間について明確な見通しがあるわけではなく、また、敷引金の負担によりどの程度賃料が低額に抑えられることの有利、不利を判断することも困難である。一方、賃貸人としては、目的物の使用収益の対価を適正に反映した賃料を設定すれば足りるのであるから、敷引金を受け取ることができなくても不利益を被るものではない。

[まとめ]
以上で検討したとおり、敷引金の(1)ないし(5)の性質から見ると、賃借人に敷引金を負担させることに正当な理由を見いだすことはできず、一方的で不合理な負担を強いることに正当な理由があることを裏付けるような要素があるとも考え難い。さらに、敷引特約は、賃貸目的物件について予め付されているものであり、賃借人が敷引金の減額交渉をする余地はあるとしても、賃貸事業者(又はその仲介業者)と消費者である賃借人の交渉力の差からすれば、賃借人の交渉によって敷引特約自体を排除させることは困難であると考えられる。これに加え、上記のとおり、関西地区における不動産貸賃借において敷引特約が付されることが慣行となっていることからしても、賃借人の交渉惰力によって敷引特約を排除することは困難であり、賃貸事業者が消費者である賃借人敷引特約を一方的に押しつけている状況にあるといっても過言ではない。

以上で検討したところを総合考慮すると、本件敷引特約は、信義則に違反して賃借人の利益を一方的に害するものと認められる。

したがって、敷引特約は、賃貸借契約に関する任意規定の適用による場合に比し、賃借人の義務を加重し、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるから、消費者契約法10条により無効である。

本件敷引特約は賃料額とともに本件賃貸借契約の契約書の1頁目に明記されており、賃借人は仲介業者から重要事項の説明も受けています。しかし、このような場合でも、敷引特約自体が賃貸借契約に関する任意規定の適用による場合に比べ、賃借人の義務を加重するものであり、賃貸事業者が消費者である賃借人に敷引特約を一方的に押しつけている状況にあれば、敷引特約が信義則に違反して賃借人の利益を一方的に害するもので、消費者契約法10条により無効となります。

ただ単に、契約書に書いてあるからと言って、敷金から差し引くことはできないということです。ほとんどの場合は、敷引特約自体が無効(少なくとも一部無効)となるでしょう。



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